トレーラーのバックは難しく、特に左バックは最難関ともいわれ「うまくできない」「苦手だ」と感じている方は多いですよね。
しかし、左バックは少しのコツを知ることで、驚くほど速く上達することもできます。
そこでこの記事では、トレーラー運転手歴15年以上、新人指導員まで務めた経験から、トレーラーのバックが難しい理由や、左バックを簡単にするためのコツについて詳しく解説していきます。
また、左バックの練習方法についても合わせて解説していきますので、左バック上達に役立ててください。
トレーラーのバックが難しい理由
新人指導員として横乗りをするときに、運転手に初めに伝えることが「トレーラーのバックが難しい理由」です。
ここでご紹介する3つの理由は、新人運転手に必ず伝えることです。
理由について知っておくことで、バックはもちろん右左折や直進のコツをつかむのに役立つので、しっかりと理解しておきましょう。
まっすぐバックできない
トレーラーのバックが難しい理由の1つ目は、「まっすぐバックできない」です。
トレーラーはトラクターヘッドのカプラーとトレーラー部分のキングピンといわれる突起物によって連結されています。
キングピンの直径は約50ミリ〜90ミリしかなく、全長16メートルにもなるトレーラーをキングピン1本で支えています。
↑これがキングピン!
そのため、バックするときにはキングピン1本に力が集中し、まっすぐバックすることができません。
分かりやすいたとえとしては、自宅にあるティッシュケースをトレーラーに、指一本をトラクターヘッドに見立てて押してみてください。
この時、ティッシュケースと指が触れている部分をトレーラーの折れ点と仮定します。
まっすぐ押すことができず、左右にティッシュケースが振れるはずです。
まっすぐ押し込むためには、指を左右に微調整し、ゆっくりと押していく必要があります。
これと同じことがバック中のトレーラーでも起こっているのですが、全長が長いために客観的に見ることができず、気づくことができません。
気づくことができなければ微調整を行えないので、思ったところに「バックできない」と難しく感じるのです。
そのため、トレーラーはまっすぐにバックできないということを理解し、常に微調整が必要になるということを覚えておきましょう。
- トレーラーはまっすぐにバックできない!
- まっすぐバックするには常に微調整が必要!
死角が多い
トレーラーのバックが難しい2つ目の理由は「死角が多い」です。
トレーラーは一定の角度以上になるとミラーにまったく映らない部分があり、バックが難しいと感じる原因となっています。
私がトレーラー運転手として働き出した頃に、ベテラン運転手に言われた言葉は「トレーラーの運転は勘と度胸」でした。
昔は勘と度胸といわれていました!
確かに、死角になり見えない場所にバックするためには勘が必要であり、バックしても大丈夫と思える度胸が必要で、これは間違いではありません。
しかし、昔のように勘と度胸で左バックをしてしまうと、接触などのトラブルは確実に増えてしまいます。
そのため、トレーラーの左バックではいかに死角を減らし、安全にバックできるような状況を作り出すことができるかが重要になるのです。
トレーラーの死角は角度をつけることで生まれますが、ミラーで確認できる範囲内でバックすることで、死角を極力少なくした状態でバックすることが可能です。
そのため、トレーラーのバックがうまくなりたいのであれば、死角をいかに減らすかといったことを考えながらハンドル操作を行いましょう。
- 死角が多いことを自覚する!
- 死角を減らしてバックが重要!
逆ハンドルが必要
トレーラーのバックが難しい3つ目の理由は「逆ハンドル」です。
トレーラーにはほかのトラックにはない「折れ点」があり、この折れ点がバックするときにハンドルを逆に切らなければならない理由です。
↑折れ点になるカプラー
トレーラーを右に寄せたいのであればハンドルは左に、左に寄せたいのであれば右にハンドルを切る必要があります。
このときに重要なのはトラクターヘッドの角度です。
トラクターヘッドとトレーラーの角度がきつくなればなるほど早く曲がり、角度が緩くなれば曲がる速度は遅くなります。
そして、角度を付けた後には必ず戻すといったハンドルさばきが必要になります。
戻すというのはトラクターヘッドとトレーラーの角度を緩くすることなのですが、経験が浅い方はこの戻すといったハンドルさばきができていません。
逆ハンドルを切った後に戻すといったハンドルさばきは、対になる重要なコツになるので、しっかりと覚えておきましょう。
- トレーラーのバックは逆ハンドル!
- 逆ハンドルの後には戻す!
重要なことはトラクターヘッド=前輪
トレーラーでバックするときに重要になるのは「トラクターヘッド=前輪」と思って運転することです。
トレーラーはタイヤの向きではなく、トラクターヘッドの向きでバックする方向を決めるので、トラクターヘッド全体がタイヤの役割を果たしているのです。
これを理解することが、トレーラーを運転する上での基本となりますが、多くの方がこの動きの重要性を理解していません。
トラクターヘッド=前輪が基本!
バック時には、ハンドルを逆に切り、トラクターヘッドの向きを通常の車両のタイヤの向きと同じようにそろえる必要がありますが、混乱することも多くなります。
そんな時には、絶対条件である「トラクターヘッド=前輪」を忘れてはいけません。
トレーラーの運転を早く上達させたいのであれば、トラクターヘッドが前輪の役割を果たしていることを理解し、その動きを意識して運転することが大切です。
- ハンドルの切り方が分からなくなったら、トラクターヘッドを前輪と考えてハンドルを操作する!
初心者がトレーラーの左バックを簡単にするコツ11選
ここでは、トレーラー運転手歴15年以上の経験をもとに、左バックのコツについて詳しくご紹介していきます。
コツは左バックをする順番で並んでいるので、ぜひ左バック習得に役立ててください。
バックする前の位置取りが重要
トレーラーでバックするときには「バックする前の位置取り」が非常に重要です。
なぜなら、位置取りをしっかりすることで、バックするためのスペースを確保できるからです。
位置取りで重要になるコツは2つ
- トラクターヘッドは折った状態!
- バックする側に寄せすぎない!
上記2点に注意して左バック前の位置取りを行ってください。
まず、折った状態で位置取りを行うことで最初に逆ハンドルを切る必要がなくなり、トラクターヘッドを起こすためのスペースが確保できます。
次に、バックする側に寄せすぎてしまうと、トレーラーの角度調整がしにくくなるので、50㎝~100㎝程度スペースを確保しましょう。
- トラクターヘッドを折った状態で位置取り
- 路肩から50㎝~100㎝の位置を確保
トラクターヘッドを折りすぎない
トレーラーで左バックをするときには「トラクターヘッドを折りすぎない」ことが重要です。
折りすぎによるデメリットは
- 死角が増える
- ヘッドを起こすのに時間がかかる
このように、折りすぎてしまうと死角が多くなり、付いた角度を戻すために時間がかかってしまうので、左バックがしにくくなります。
そのため、ミラーに映る範囲で角度をつけ、折りすぎないように注意しながら左バックを行いましょう。
- 角度は緩く
- ミラーに映る範囲でバック
ハンドルは切ったら戻す
トレーラーで左バックをするために切ったハンドルは「必ず元に戻す」ようにしてください。
元に戻すとはトラクターヘッドとタイヤの向きを合わせるということで、バック中のトレーラー動きが安定します。
なぜなら、先で紹介したようにトレーラーはタイヤではなく、トラクターヘッドの向きでバックする方向が決まるからです。
そのため、ハンドルを切ったままバックしてしまうと、角度がつきすぎてしまい、修正が効かなくなります。
元に戻さないと角度が付きすぎる!
特に初心者では、一般車両と同じ感覚でバックしてしまい、ハンドルを戻すといった操作を行いません。
具体的なコツとしては、一度に角度をつけるのではなく、トレーラーの動きを見ながら逆ハンドルを使い、タイヤを真っ直ぐにすることを繰り返しながら、バックしていきましょう。
- ハンドルは必ず戻す
- 逆ハンドルを織り交ぜながら
一定の角度を保ったままバックする
左バックをするときに重要なコツは「一定の角度」でバックすることです。
一定の角度でバックするためには、トラクターヘッドを起こすといったハンドル操作が必要になります。
ベテラン運転手は起こすことを忘れない!
一定の角度を保つためにはハンドル操作はもちろん、車両のバックスピードも大きくかかわり、その両方のタイミングが合ったときに一定の角度でバックすることができます。
一定の角度を保ってバックすることができれば、狙った位置にトレーラーを調整しやすく、修正も簡単に行えるので左バックが簡単に感じるようになります。
そのため、トレーラーで左バックをするときには、一定の角度を保った状態でバックすることを心掛けてください。
- 一定の角度を保ってバック
- 一定になるタイミングを見極める
ゆっくりバックする
「ゆっくりバック」することも、トレーラーの左バックでは重要なコツになります。
新人運転手の横乗りを何度も経験していますが、一番指摘するのがゆっくりバックすることで、早くバックしていることすら、気づいていないことが多くなっています。
初心者はバックスピードが早い!
一般的な車両であれば、ハンドルを切ることで、すぐに車体が曲がり始めますが、トレーラーではハンドルを切る→トラクターヘッドに角度がつく→最後にトレーラーが曲がり始めます。
つまり、一般車両にはない「トラクターヘッドに角度がつく」といった余計な動作が加わることで、どうしてもワンテンポ遅れてしまいます。
ワンテンポの遅れを取り戻すためには、
- ハンドル操作を早くする
- ゆっくりバックする
のどちらかですが、難易度の高い左バック中にハンドル操作を早くすることはさらに難しいので、ゆっくりバックするしかありません。
そのため、トレーラーでバックするときには、自身が思っているよりもゆっくりとしたスピードでバックしてみましょう。
- 思っているよりもゆっくりバックする
- アクセルは踏み込まない
ミラーを有効活用する
トラクターヘッドとトレーラーに角度がついて視認できない場所がある時には、「ミラーを有効に活用」することがコツです。
現在のトレーラーは車内からミラーを折りたたむことができるので、トレーラーが映らなくなったら車内から折りたたんで死角を減らします。
私も見えない場合にはミラーを折りたたみます!
また、ミラーは角度も微調整できるので、左バック中に見えにくいと感じたら、一度車体を止めてミラーを操作し、角度を調整してみましょう。
トレーラーの左バックが難しいのは、「見えない」ことが要因の一つです。
ミラーを有効に活用して死角を減らし、確認しながらバックしましょう。
- ミラーを折りたたんで確認
- ミラーを調整して確認
後部窓から目視する
左バック中には「後部窓」からトレーラーの角度や位置を確認することも重要なコツです。
左バックする場所によってはどうしても大きく折り込む必要があり、ミラーを調整しても全く見えないことがあります。
そんな時には、トラクターヘッドの後部窓からトレーラーを確認することができます。
見えない場合は後部窓から確認できる!
後部窓を使用するときの注意点として、以下の2つの点に注意が必要です。
- ある程度角度がつかないと見えない
- 後部窓が使用できない場合がある
まず、後部窓はトラクターヘッドとトレーラーの角度がある程度つかないと、プロテクターが邪魔になり目視することができません。
次に、後部窓に蓄冷クーラーなどが取り付けられている場合には、そもそも使用できないので注意が必要です。
後部窓からトレーラー最後部が見えたら、できるだけ同じ角度を維持し、目視できる状態を保ったままバックしていきましょう。
- 後部窓から確認する
- 後部窓から角度を保ってバックする
向きを微調整
トレーラーで左バックする時には、必ずハンドルでトラクターヘッドの「向きを微調整」してください。
構造的な問題でまっすぐバックできないトレーラーでは、常に微調整を行わないとうまく左バックができません。
トレーラーは常に微調整が必要!
注意点として、微調整を行った後には、トラクターヘッドとタイヤがまっすぐになる「間」を持たせてください。
なぜなら、トレーラーはハンドルを切ってから曲がり始めるまでに時間がかかり、自分が望んだ角度に調整できているかどうかはすぐに判断できないからです。
そのため、一度タイヤをまっすぐにしてトレーラーの動きを確認しながら、微調整を行いバックしていきましょう。
- バック中は常に微調整
- 反応する「間」を持たせる
トラクターヘッドを伸ばす
トレーラーの左バックがうまくいかない時には「トラクターヘッドを伸ばす」ことがコツになります。
トラクターヘッドを伸ばすとは、左バック中に角度が付きすぎて調整できなくなった時に、一度ハンドルを右に切り、前進することです。
入らないと感じたらトラクターヘッドを伸ばして前進!
こうすることで、左バックをリセットすることが可能で、やりやすい位置からリスタートすることができます。
イメージとしては、普通車を駐車場に止めるとき、左側の白線から離れすぎてしまった場合に、一度ハンドルを右に切りながら前進してバックする位置を調整するのと同じです。
完全にまっすぐにしなくても効果はあるので、狭い場所でも使えるコツになります。
- トラクターヘッドを伸ばす
- スタート位置を変える
降りて確認する
左バックに自信がないのであれば「降りて確認」することも重要なコツになります。
左バック中に降りて確認することを恥ずかしいと感じる方もいると思いますが、まったく気にする必要はありません。
なぜなら、現役15年以上の私でも狭い場所にバックする時や、自信のないときには降りて左右を確認しているからです。
降りて確認は基本!
降りて確認することは私だけではなく、ベテラン運転手であれば高確率で行っていることですが、経験の浅い方はなぜか降りて確認することはありません。
車内からミラーで確認できることは限られており、実際に目視することで得られる情報にはかないません。
そのため、うまく左バックをしたいのであれば、降りて確認することもコツの一つになります。
- 降りて目視で確認
- 目視で得られる情報をもとにバックする
明確なイメージを持つ
トレーラーの左バックを簡単にするためのコツは「明確なイメージを持つ」ことです。
明確なイメージとは
- トラクターヘッドの角度
- 車両の長さや幅
- バックスピード
など、トレーラーがどの位置にいて、どのように動いているのかといったイメージです。
トレーラー全体のイメージが重要!
トレーラーの左バックが難しい、うまくできないと感じている方は、ミラーなどの目に見えるだけの情報を頼りに操作しています。
目に見える情報だけでは、角度が付きすぎてミラーに映らなくなるとバックできなくなり、いつまでたっても上達することはありません。
そのため、左バックをするときにはミラーから得られる情報だけではなく、頭の中で車両の動向をしっかりとイメージしてみましょう。
- トレーラーを明確にイメージする
- トレーラーの動向をイメージする
プロが教える左バックの練習方法と手順
トレーラーでうまく左バックをするためには、練習が必要になります。
練習内容と手順
1.目視で右バック
2.ミラーだけで右バック
3.後部窓から目視・ミラーで左バック
上記の順で練習すると感覚をつかみやすく、上達も早くなりますので、それぞれ詳しく解説していきます。
まず、目視しながらできる右バックで、ハンドルの切り方や車両感覚など、バック全体の基本的な感覚をつかんでください。
目視しながらの右バックが思うようにできるようになったら、運転席側のミラーで右バックをしてみましょう。
運転席側のミラーだけで右バックできたら、左バックの基礎は完了!
慣れないうちは感覚が分からず、思った位置にトレーラーを動かすことができないと思いますが、練習することで必ずできるようになります。
ミラーを見ながらバックするときには、なるべくミラーにトレーラーが映るようにバックすることがコツになります。
ミラーでの右バックに慣れたら、左ミラーと後部窓からトレーラーを確認し、左バックを行ってください。
あくまで練習ということを忘れず、失敗を重ねながら車両の動きや感覚をつかむことを目的とした練習を行いましょう。
トレーラー左バックの練習をするときには、周りに迷惑がかからないような場所で練習する必要があるので、会社の車庫や駐車場などで行ってください。
- 手順を踏むと上達は早い
- 失敗することで上達する
- 練習で感覚をつかむことが重要
慣れるまで左バックは禁止でも問題ない!
トレーラーのバックに慣れるまで「左バックは禁止」でも全く問題ありません。
もちろん、左バックでしか入場できない場合もありますが、基本的に普通の運送会社であれば慣れるまで、左バックでしか入場できないような場所の配車は行いません。
実際に、私自身が配車をする立場にあった時でも、初心者に左バックの集配先は配車することはありません。
- 慣れない初心者には配車されないことが多い
そのため、左右どちらのバックでも入場できるような場所では、遠回りしてでも右バックにしてから入場してください。
もし仮に、慣れる前に左バックでしか入場できないような場所が配車されてしまったときには、正直に自信がないからと断ってください。
それでも、無理に配車をしてくるようなら少し「怖いと」感じてしまいます。
なぜなら、慣れない左バック中に接触事故を起こしてしまうと、車両や対象物はもちろん積載している荷物にまで賠償責任が発生する可能性があるからです。
そのような状況を避けるためにも、慣れるまで左バックは禁止にして、しっかりと練習を行ってから左バックに挑戦しましょう。
- 遠回りしてでも右バックに!
- 無理な配車には注意が必要!
まとめ
左バックはトレーラーの中で最も難しく、難易度の高い操作であり、多くの初心者が苦手意識を持っています。
しかし、プロのトレーラー運転手として働きたいのであれば、いつかは克服しなければならず、左バックは避けては通れません。
そのため、この記事でご紹介してきた11のコツを活用して、左バックを克服するのに役立ててください。
- バックする前の位置取りが重要
- トラクターヘッドを折りすぎない
- ハンドルは切ったら戻す
- 一定の角度を保ったままバック
- ゆっくりバックする
- ミラーを有効活用する
- 後部窓から目視する
- 向きを微調整
- トラクターヘッドを伸ばす
- 降りて確認する
- 明確なイメージを持つ
トレーラーのバックは注目の的であり、特に左バックはトレーラー運転手の腕の見せ所です。
コツをつかんで難しいトレーラーの左バックを克服してください。
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